中国のEC最大手、アリババ集団(
09988)が26日、香港上場の扱いを「プライマリー上場」とする方針の下、申請を行うと発表した。同社は14年にニューヨーク証取(NYSE)に上場した後、19年には香港メインボードにセカンダリー上場したが、今後は香港を米国と同じプライマリー上場と位置付ける「デュアルプライマリー」に移行する運び。これにより、本土・香港間の株式相互取引「ストックコネクト(港股通)」を通じた本土資金の呼び込みに道を開く見通しとなった。同社によれば、22年末までに手続きが完了する見通しという。
アリババ集団の今回の決定は、本土をはじめアジア地域の投資家へのアクセスを通じた投資家基盤の拡大や流動性の向上が目的。ただ同時に、「米上場廃止リスク」の低減につなげる狙いもあるという。米国では20年12月に成立した「外国企業説明責任法(HFCAA)」の下、中国企業の締め出しへのプロセスが進行中。24年までに約270社が強制上場廃止の対象となる可能性があり、今後は「デュアルプライマリー上場」ケースがさらに増えることになりそうだ。
◆米上場廃止に向けて「デュアルプライマリー上場」相次ぐ
アリババ集団は19年に香港にセカンダリー上場したが、その後の米中摩擦を受け、香港側の比重が大幅に拡大している。香港証券取引所(
00388)のデータによると、中央清算決済システム(CCASS:香港証取の株式売買プラットフォーム)上にあるアリババ株の比率は当初の20%から60%に上昇したという。売買規模は米ADR(米預託差証券)のほうが大きく、22年上期の1日当たり平均売買代金は香港市場が約7億米ドル、米国が32億米ドル。ただ、プライマリー化に伴い、「ストックコネクト」の対象銘柄となれば、売買規模も膨らむ見通しだ。
アリババ集団、テンセント(
00700)、美団(
03690)という中国の3大ネット銘柄「ATM」の中で、ストックコネクトに含まれていないのはセカンダリー上場扱いのアリババだけ。例えば7月26日時点で、テンセントと美団に対する本土投資家の持ち高はそれぞれ2278億HKドル、1145億HKドルに達しており、アリババもストックコネクトに採用されれば、本土からの投資が1000億HKドル規模に達することはほぼ確実とみられている。
一方で、アリババによる香港のプライマリー上場化という“本国回帰”は、中国ネット銘柄の米上場廃止の可能性を改めて意識させる出来事。盛宝金融の中国圏担当ストラテジスト、黄永輝氏は、「中国政府がこの問題に対処するため、保有データの機密性に応じた中国株の分類方式を検討しているとの外電報道があった直後のタイミングで、ネット企業が米上場廃止に備えて撤退準備を行っていることが示唆された」と指摘。ネット銘柄の下押し圧力につながる可能性を指摘している。
なお、アリババより前には、ビリビリ(
09626)が「デュアルプライマリー上場」に向けて申請を提出済みであり、10月初めにも発効する見込み。また、小鵬汽車(
09868)や理想汽車(
02015)、知乎(
02390)、貝殻控股(
02423)、百済神州(
06160)、和黄医薬中国(
00013)は、香港への重複上場に向けたIPOに際して、その扱いをデュアルプライマリー上場と位置付けた経緯があった。セカンダリー上場はプライマリーに比べて要件が緩いが、デュアルプライマリーとなれば、両証取の監督規定を順守することが必要。中国企業の米上場廃止に向けてカウントダウンが始まる中、こうした流れは今後も続きそうだ。
◆香港証券取引所に恩恵、売買代金拡大へ
個別銘柄に目を向けると、現在のトレンドは香港証券取引所(
00388)に有利。米上場銘柄の香港への重複上場やデュアルプライマリー上場化もプラスだが、この先、中国企業の米上場廃止が現実のものとなれば、さらなる売買代金の拡大が期待できる。同社は18年4月、WVR(加重議決権)構造企業の上場や海外上場銘柄のセカンダリー上場を受け入れる新たな規定を施行。21年3月にはデュアルプライマリー上場の受け入れを広げるとし、セカンダリー上場からプライマリー上場場への切り替えに関する指針を明らかにしていた。
ゴールドマン・サックスは、米上場の中国企業銘柄の株式が全面的に香港にシフトした場合には、香港市場の1日当たり平均売買代金が340億HKドル規模で膨らむと試算。目標株価475HKドルで、香港証券取引所に対する「買い」推奨を継続している。
また、BofAセキュリティーズは遅くても6カ月後をめどに、アリババ集団が「ストックコネクト」に採用されるとみて、香港証取への恩恵を指摘。仮に同社株全数が香港での取引にシフトした場合、香港市場の売買規模が4%膨らむとした。香港証券取引所の目標株価を430HKドルとし、「買い」の投資判断を維持している(26日終値は368.20HKドル)。