中国の全国人民代表大会常務委員会は23日、日本の固定資産税に当たる「不動産税」を一部地域で試験的に導入する方針を決定した。不動産税はすでに10年以上にわたり、何度も導入観測が浮上してきた制度であり、ちょうど10年前には、2都市(上海市と重慶市)限定での試行が始まったが、今回は試験都市を拡大し、全所有物件を対象とした本格的な制度改革となるもよう。これにより、格差拡大の象徴ともなっている不動産の価格抑制を実現し、習近平国家主席が提唱する「共同富裕」の理念につなげる狙いとされている。
ただ、不動産税は物件の所有コストを増大させるため、試験制度の設計次第では、ただでさえ冷え込む住宅市況にとって、かなりの打撃となる恐れがある。メディア報道によると、一部では早くも、富裕層が手持ち物件の売りを急ぐ動きが出ているという。半面、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の報道によれば、不動産税に関しては政府指導部内でも反対意見が根強く、試験導入都市は当初予定の30都市から約10都市に減らされたもよう。『香港経済日報』によると、不動産市況のさらなる低迷を防ぐため、税率もかなり低く抑えられる可能性があり、その場合、実質的な影響は限られる見通しという。
いずれにせよ、不動産市場への実質的な影響を測る上では、税率や対象地域などの詳細発表が待つ必要がありそうだ。ロイター通信が伝えた専門家筋情報によれば、この先、まずは中央当局が年内に実施方法に関する詳細を発表し、22年には正式に試験導入が始まる可能性が高い。
◆4大都市などが試験都市の有力候補、地方の不動産依存を軽減へ
国営新華社の報道を見ると、不動産税の試験導入は一部の都市を対象に、5年間にわたって行われ、居住用だけでなく非居住用物件や土地を含む各種不動産が対象となる(農村部は対象外)。その他の詳細事項は今のところ未発表だが、国内の専門家らによれば、不動産過熱色の強い約10都市がまずは試験地点となる見込み。民間調査会社の中国指数研究院は、1線、2線級の主要都市から選ばれると予想し、有力候補として、北京、深セン、上海、重慶、杭州、寧波、南京、蘇州の各市と海南省を挙げている。
また、ロイター通信の専門家筋情報によると、不動産税は地方税の扱い。地方政府が具体策を策定し、国務院の承認を受ける形となるもよう。政府系紙『経済日報』の24日付の論評によれば、地方政府の不動産依存を軽減するとともに、地方財政収入の安定化を促し、地方債務リスクの抑制につなげるのが不動産税の狙いの一つという。
◆基本的な居住需要を保障、「共同富裕」を実現へ
なお、上海市と重慶市では10年前に不動産税が試験導入されたが、いずれも対象は極めて限定的。基本的に高級住宅が対象で、さまざまな条件付きとなっている。例えば上海市民が住宅を購入した場合、課税対象となるのは1人平均60平方メートルを超える大型物件で、かつ2戸目以降の取得に当たるケース。税率は0.4−0.6%に設定されている。仮に2戸目となる80平方メートルの住宅を440億元で購入した場合、現行の不動産税は年間約3000元(0.4%で計算)。ただ、その後の10年間を見る限り、この2都市における過熱抑制効果はほぼゼロだった。
不動産研究機関の貝殼研究院によれば、新たに試験導入される不動産税が、10年前に導入された同税と異なるのは主に以下の3点。◇今回の不動産税は所有物件すべてが対象となる、◇家庭の負担余力に十分配慮し、基本的な居住需要を保障することを前提とする、◇世帯別の貧富の差を重視した制度とし、「共同富裕」の実現を後押しする。
こうした点を考慮すれば、不動産税率には一定の幅が設けられるとみられ、低所得者向けの免除範囲も設定される可能性が高そうだ。また、最近の不動産市況の冷え込みもあり、税率そのものが低水準に設定される可能性を指摘する声もある。中国法学会財税法学研究会の副会長で、中国政法大学財税法研究中心の主任でもある施正文氏は、標準税率がまずは1%以下に設定されるとの見方。そうなれば、不動産市況への実質的な影響は限られる可能性が高いという。
なお、中国の不動産市場は締め付け強化や中国恒大集団(
03333)の債務危機を背景に、急速に冷え込んでおり、国家統計局の最新統計では、主要70都市のうち、9月の新築住宅価格が前月を上回ったのは27都市。逆に下落したのは36都市、20年2月以来1年7カ月ぶりに、上昇と下落の数が逆転した。こうした中、政策の風向きはここに来て、やや緩和方向に変わりつつある。22日付のAAストックスによれば、BofASは住宅ローン金利の引き下げやデベロッパー向けの融資制限の緩和といった動きが見られると指摘。不動産銘柄の現在株価が22年予想PER約4倍にとどまるとし、優良銘柄の買いを推奨している。国有企業系のトップピックは中国海外発展(
00688)、華潤置地(
01109)、万科企業(
02202)。民営企業では龍湖集団(
00960)と旭輝控股(
00884)、新城発展(
01030)を選好している。