中国の内閣に当たる国務院は27日、「流通の発展加速で商業消費を促進するための意見」(以下、「意見」)と題した新たな消費促進策を発表した。対米摩擦の一段の激化で国内経済の下押し圧力が高まる中、やや萎縮傾向にある消費を喚起する狙い。20項目で構成されるこの「意見」は消費、テクノロジー、医療、教育などの幅広い領域に及ぶ内容であり、自動車購入制限の緩和や輸出製品の国内向けの販路開拓、エコ消費の促進、農村消費の促進、ナイトタイムエコノミー(夜の経済活動)の活性化――などの施策が盛り込まれた。本土・香港株式市場にとっては明らかに支援材料であり、引き続き消費関連銘柄が焦点となる見込み。『香港経済日報』は中期的にブランド力の強い消費銘柄が有望との見方だ。
この「意見」は直接的な消費刺激策だけにとどまらず、テクノロジーの運用強化やコミュニティーサービスの充実などを幅広く目指す内容。テクノロジー面では、ビッグデータやクラウドコンピューティングの運用を奨励し、そのために研究開発費の税控除といった優遇策をさらに強化するとした。一方、消費において注目されるのは、自動車購入制限の緩和・撤廃のほか、「深夜食堂」などの外食エリアの設置を通じ、ナイトタイムエコノミーを活性化させるとした項目。ほかに、人材育成を通じ、農村でのeコマース発展を目指すとの方針も示された。医療・教育分野においては、「インターネット+コミュニティー」型の公共サービスプラットフォームを構築し、教育、文化、医療、介護、家政、スポーツなど、各種生活サービス施設を建設するとの方針が盛り込まれている。
◆ナイトタイムエコノミー活性化や農村消費振興策も
中国経済が安定成長を維持する上では消費の持続的拡大が不可欠であり、交通銀行金融研究センターの劉学智シニア研究院は「現時点では内需、特に消費の底上げが極めて重要」と認識だ。GDPの構成要素となる消費・投資・輸出のうち、GDP成長に占める消費(最終消費支出)の寄与率は19年4−6月に55.3%と、項目別に最大だったものの、17年10−12月の79.6%から大きく低下。2年ぶりの最も低い数字となった。こうした中、消費型経済へのシフトを目指すという意味からも、一段の消費促進策が求められる状況下にあった。
光銀国際の林樵基・董事総経理件研究部主管は、国内経済の内需主導型へのシフトを支えるとみて、新たな消費刺激策の内容を前向きに評価。香港株式市場については、中長期的に米中摩擦および中国経済が相場の方向性を決めるとしながらも、短期的には今回の施策が支援材料になるとみている。
◆主要都市部の「購入制限」緩和、高級車の追い風に
今回の「意見」は幅広く消費銘柄にとって追い風となるが、その筆頭と言えるのが自動車銘柄。自動車消費に関する項目では、現在7つの主要都市が実施している自動車購入制限措置(車両登録制限)を、現地の事情に照らしつつ段階的に緩和、あるいは撤廃するとしており、渋滞緩和目的で11年から続いていた同措置がこの先消える可能性が出てきた。また、地方当局に対し、可能であれば新エネルギー車向けの購入支援策を実施するよう要求。さらに、中古車市場の発展に向け、転売制限策の全面撤廃と、省内・市内での取引解禁(排ガス規定を満たす車種のみ)を求めるとした。
中国の新車販売は7月まで13カ月連続でマイナス成長を続ける中(7月に前年同月比4.3%減、1−7月では前年同期比11.4%減)、購入制限の緩和・撤廃方針が示されたことはセクター全体にプラス。『香港経済日報』は個別では、主に高級車を扱う自動車ディーラー大手の中升集団(
00881)と、民族系有力メーカー吉利汽車(
00175)を有力視している。うち中升集団に関しては、購入制限を行っているのが主に大都市部であることから、緩和・撤廃による高級車需要の回復が期待できる点がプラス。BOAメリルリンチも主に高級車の追い風になるとみて、中升集団や広匯宝信汽車(
01293)といったディーラー銘柄のほか、BMW合弁生産を展開するブリリアンス・チャイナ(
01114)とベンツ生産を手掛ける北京汽車(
01958)を恩恵銘柄としてピックアップしている。
また、吉利汽車に関しては「最悪期を脱した」との見方が強く、21日の決算発表後に買われる展開となっている。UBSは19年中間期の業績悪化(前年同期比40%減益)要因はすでに織り込まれたとみて、新型車の発売に伴う今後のシェア回復を予想。目標株価を18.3HKドルから13.6HKドルに引き下げながらも「買い」推奨を継続した。ほかに野村インターナショナルとBOAメリルリンチはそれぞれ目標株価を15.9HKドル、14HKドルに設定。いずれも「買い」の投資判断を付与している。