米中対立の一段の激化や両国経済および世界経済の下押し懸念を背景に、5月下旬から国際金相場が上昇している。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)COMEXの金先物価格は一時、1トロイオンス=1350米ドルの大台を超え、7日終値は1346米ドル。2月以来の高値を記録した。投資家のリスクオフ姿勢の高まりを受け、この先、13年以来6年ぶり高値を狙う展開もあり得る状況だ。ブルームバーグによれば、INTL・FCストーンの欧州・中東・アフリカ(EMEA)・アジア担当市場分析責任者、ローナ・オコンネル氏は、年内に1400米ドルに達する可能性を指摘している。
金相場の先高観を受け、香港株式市場でも本土系の産金銘柄や、SPDRゴールド・トラスト(
02840)、バリュー・ゴールドETF(
03081/
83081)といった金ETF(上場投資信託)の値上がりが鮮明。個別銘柄では、金価格の上昇による恩恵が最も大きいとされる山東黄金鉱業(
01787)の注目度が高い。
◆各国中銀が金準備積み増し、19年の購買量は記録的水準に
金価格は5月下旬から明らかに上昇トレンドに転じたがが、その最大の要因は“米中貿易戦争”を受けた世界経済の鈍化懸念。米国で逆イールドが続く中、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が今月4日、利下げの可能性を示唆したことで、米ドルの先高観測も後退。「リスクオフ・トレンド」と「ドル安観測」という、金相場の上昇に向けた2つの条件がこれで整う形となった。また、世界各国の中央銀行が軒並み、金準備の積み増しに動いていることも金需要を底上げしている一因だ。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の統計によれば、各国中銀による金購入量は18年に651トンと、16年、17年の2倍近くに達したが、続く19年1−3月にはさらに増加傾向が鮮明となり、前年同期比68%増の145.5トンと、6年ぶり高水準を記録。19年通年の購入量が前年実績をさらに上回る可能性が出てきた。中国人民銀行もこの例に漏れず、18年12月から5カ月連続で金の買い増しを実施。4月末時点の金準備は6110万トロイオンス(約1732.2トン)、総額783億米ドルに達している。
◆探査の空白期とコスト高で供給側にもひっ迫感
一方、供給側の事情を見ても、ひっ迫感はかなり強い。国際金相場が13年の高値圏から調整した後、産金各社が探査活動を手控え、一部の金鉱が操業停止に追い込まれた経緯があったためだ。工銀国際によると、探査・開発活動は再び活発化しているものの、調査・探査開始から生産に至るまでの所要期間は一般に約10年。この先の生産量縮小が予想されるという。また、採掘・処理・精錬などのコスト全般が高騰していることも、金相場の上昇要因の一つなっている。
ゴールドマン・サックスは2月、金価格に関する予測値を引き上げ、同月を起点とした3カ月後、6カ月後、12カ月後の金価格をそれぞれ1トロイオンス=1325米ドル、1375米ドル、1425米ドルと予測した。このうち「3カ月後」はすでに先週到来したが、実際には上方修正後の予測値を上回る勢いだ。こうした状況は幅広く、産金銘柄の支援材料となる。
◆山東黄金鉱業が恩恵銘柄の筆頭、強気の投資判断相次ぐ
香港株式市場では先週1週間の騰落率で、産金がセクター別2位となったが、『香港経済日報』は中でも、純粋な金生産者である山東黄金鉱業に対して強気。金相場の上昇による恩恵が最も大きいとみられるためで、工銀国際の分析では、金相場が1%上昇するたびに、同社の通期純利益は約4%膨らむ見通しという。
山東黄金鉱業は18年通期に前年比7%増収、27%減益と苦戦したが、19年以降には再び成長軌道に乗る可能性が高い。ブルームバーグの市場コンセンサス予想を見ると、19−21年の予想増益率はそれぞれ前年比29%、23%、10%。工銀国際、UOBケイヒャン、中国銀河証券は目標株価を21.55HKドル、23.97HKドル、24.3HKドルに設定し、そろって「買い」を推奨している。
一方、モルガン・スタンレーは、米中対立を背景とする元安トレンドも産金セクターの追い風となる点に触れ、同じく金価格の変動に対して感応度の高い招金鉱業(
01818)をトップピック銘柄とした。6月4日のリポートで、金価格が1%上昇するごとに、同社利益が約3.8%膨らむとの分析結果を示し、同社株が向こう15日間、7−8割の確率で上昇すると予想、目標株価8.3HKドルで、「オーバーウエート」の強気判断を付与している。