香港証券取引所(
00388)は4月30日、ニューエコノミー銘柄の積極的な誘致に向けて上場規則を一部緩和したが、これに伴い、本土の複数の新鋭バイオ企業が香港上場に向けて準備を進めているもようだ。バイオ医薬銘柄の成長期待は極めて高く、既存銘柄の株価パフォーマンスも好調。香港上場の2大銘柄を見ると、金斯瑞生物科技(
01548)の株価は上場から2年余りで15倍以上に値上がりしており、薬明生物技術(
02269)も上場から1年で4倍強を記録した。この先、本土バイオ企業による香港上場が続けば、投資家のこの分野への注目度はさらに高まりそうだ。また、新薬開発事業は商品化にこぎつけるまでに巨額の投資を必要とするため、香港株式市場が門戸を大きく広げたことは新興バイオ企業にとっても朗報。これを機に、本土の創薬ビジネスが飛躍するとの期待も大きい。
バイオ医薬は本土A株市場や米ナスダックなど各証取が誘致を目指す有力分野だが、業界関係者によれば、本土のバイオ企業にとっては香港上場が最も現実的な選択肢になり得るという。ナスダックは敷居が低いものの上場コストが高く、A株市場はコストこそ安いものの、IPOが実現するまでに時間がかかる。香港はコスト、難易度の両面から、ナスダックとA株市場の中間にあり、バランスのよい選択肢。『中国証券報』によれば、香港上場を検討している本土バイオ企業は現時点で10社を超えるという。
◆10社以上が香港上場を検討、歌礼生物科技が第1号か
香港証取は4月30日、加重議決権(WVR、Weighted Voting Rights)構造を持つ企業を受け入れるなどの規則緩和を行ったが、この際、同時に実施したのが、上場要件に満たないバイオ企業を対象とした特例措置の導入。製品開発の進度や時価総額を含む複数の要件を設定した上で、売り上げ・利益計上前の新興バイオ企業を受け入れる姿勢を鮮明にした。
WVR受け入れ規定の適用第1号となるのは、21日に機関投資家向けの募集を開始した小米科技(シャオミ)だが、バイオ企業の特例に関しては今のところゴーサインを得た企業はなく、第1号がどの企業になるかは不明。ただ、C型肝炎やHIV治療薬を主力とする歌礼生物科技(杭州)がすでに上場申請を提出済みであり、第1号ケースとなる可能性が高まっている。5月上旬に香港証取に提出した資料によれば、同社はまだ収益計上前の段階にあるという。また、これに続いて、アリババ・グループ(BABA)のジャック・マー会長が出資した華領医薬技術も香港上場申請を行ったとの情報が伝わっている。同社も18年1−3月期現在、商品化に至っておらず、売り上げも立っていない状況。主に政府補助金を受けて研究開発を進めているという。
このほか、香港上場の意向が伝わっているのは、天士力医薬集団(
600535)の全額出資子会社である上海天士力薬業や、上海復星医薬(
02196/
600196)の全額出資子会社である上海復宏漢霖生物技術。ほかに江蘇豪森薬業集団、信達生物製薬、遼寧成大生物、上海君実生物医薬科技など。また、注目企業の1社、泰州越洋医薬開発の聞暁光CEOも「香港上場に非常に関心がある」と発言しており、この先、香港上場を実現させる可能性が出てきた。同社は創薬や持効性製剤分野の知的財産権取得、特許申請などに従事しており、創業者でもある聞CEOは中国政府が11年に開始した海外ハイレベル人材の招致計画「千人計画」枠で帰国したことで知られる有力研究者。18年10月には疼痛治療薬改良型新薬「維安」(OPL-004)の新薬承認申請(NDA)を行う計画であり、仮に承認されれば、中国企業が米国の新薬証書を取得する初のケースとなる。
◆既存の2大バイオ銘柄、金斯瑞生物科技はCAR-T技術が強み
一方、既存の2大バイオ銘柄に目を向けると、金斯瑞生物科技は増資による影響で、6月に入ってから調整しているが、引き続き有力バイオ企業として注目度が高い。同社の最大の売りは、世界的に注目度の高い最先端技術「CAR-T細胞療法」の国内第一人者とされる子会社の南京伝奇。CAR-TとはCAR(キメラ抗原受容体)技術を用いて患者のT細胞の再プログラム化を行った上で患者に輸注する治療法で、ノバルティス・ファーマが17年、初めて米食品医薬品局(FDA)の承認を得た。南京伝奇は2年後にも臨床研究を終え、CAR-T技術を市場に投入する計画だが、初期的な市場規模は150億米ドルに達する見通しという。
また、薬明生物技術はバイオ医薬品の創薬から臨床試験、製造まで一貫して請け負う開発受託会社であり、17年の調整後利益は前年比85%の伸びを示した。ドイツ銀行は中国のバイオ技術研究ブームの波に乗り、17−22年にはEPS伸び率が年率平均45%に達すると予想。目標株価100HKドルで、同社の「買い」を推奨している。また、JPモルガンは先月中旬のリポートで、アイルランドと河北省の新工場の落成を受けた生産能力の大幅な増強を評価し、同社の目標株価を102HKドルから110HKドルに上方修正。「オーバーウエート」の投資判断を継続している。