中国の月之暗面(ムーンショットAI)社が開発した最新のLLM(大規模言語モデル)「Kimi K3」が世界に衝撃を与えている。LLM開発分野では「DeepSeek」の登場以来、米国と中国との “2強”体制が鮮明となったが、7月16日に発表された「Kimi K3」は米国のAI覇権を揺るがしかねない最先端のAIモデル。総合性能スコアでアンソロピック「Claude Fable 5」やオープンAIの「GPT-5.6Sol」といった米最先端モデルに迫り、一部機能では上回ったとの情報が伝わった。
総パラメーター数2兆8000億と最大規模を誇る「Kimi K3」は中国発の他のLLMと同じオープンソースモデルであり、米国の競合に比べた圧倒的な低コストが強み。「Kimi K3」ショックで、米国勢の「高く売るクローズドモデル」に対する先行き不透明感が広がり、米AI銘柄が一時売られる展開ともなった。米国企業が中国製AIへの乗り換えを加速させるとの警戒感はこれより前の4月、深度求索が「DeepSeek V4」モデルを発表して以来続いていたが、今回の「Kimi K3」でさらに懸念が高まった。
「Kimi K3」に関して、今後注目されるのは月之暗面のIPO計画。「DeepSeek」の深度求索は本土市場への上場を目指し、早ければ年内に上場申請を提出するとされるが、月之暗面は香港上場を検討しているもようだ。一方、「Kimi K3」に絡み、もう一つ注目されるのは米中の「AI覇権争い」。月之暗面を対象とした米制裁の懸念が浮上している。

◆米中「AI覇権争い」が激化、Kimiの「蒸留」疑いで制裁の可能性
中国発の高性能LLMの登場は米中のAI覇権争いをさらに激化させつつあり、米国による制裁の可能性が高まり始めた。これまでにも深度求索、ミニマックス(
00100)、月之暗面という3社のAIモデルに関して、アンソロピック社が自社モデル「Claude」からの“蒸留”(組織的な知識の抽出・利用を指す)行為を指摘してきたが、「Kimi K3」に関してはホワイトハウス当局者も非難。「Claude Fable」からの蒸留や、禁輸対象となっているエヌビディアの半導体GB300の不正使用を指摘し、容認できないとのコメントを発した。ベッセント財務長官は「米企業の知的財産権を不正に窃取していることが判明した場合、制裁の適用やブラックリストへの掲載を検討する」との方針を示している。
この件に関しては、今後7月27日に予定される「Kimi K3」のフルウエイトの公開(ダウンロードと利用が可能になる)と、9月にも開かれる米中AI協議が注目されるところだ。
◆8月にIPO前の最終ラウンド、企業価値500億米ドル目指す
月之暗面は23年4月創業。清華大学コンピュータ科出身者4人によって共同設立された。創業者兼CEOの楊植麟氏は清華大学で学士号を取得した後、米カーネギーメロン大学で博士号を取得。Google Brainに在籍し、Googleの大規模モデル関連技術の研究開発に携わった経歴を持つ。
月之暗面の企業価値はエンジェルラウンド当時に3億米ドルだったが、26年5月に完了したシリーズDでは200億米ドル。『21世紀経済報道』によれば、8月に上場前の最終ラウンドの資金調達をスタートさせる予定であり、目標のプレマネー評価額(資金調達前の企業価値)は500億米ドル。早ければ6カ月以内にも、香港株式市場に上場する計画という。LLM開発の有力企業4社のうち、北京智譜華章科技(
02513)とミニマックスはそろって、26年1月に香港市場に上場。続いて「DeepSeek」の深度求索の本土上場計画が進行中だ。
なお、「Kimi K3」の発表直後には、LLM開発で競合する北京智譜華章科技、ミニマックスが急落する半面、長飛光纖(
06869/
601869)などのAIハードウエア銘柄や、アリババ集団(
09988)、テンセント(
00700)など自社サービスにAIを組み込むプラットフォーム系テック株が値上がりする展開となった。台湾メディア『鉅亨網』は海外メディアの見方を集計し、米マイクロン・テクノロジーズのほかに、テンセント、アリババ集団を恩恵銘柄としてピックアップ。それぞれAIエコシステム、クラウドコンピューティングビジネスにおける優位性をその理由に挙げた。
また、この2社は月之暗面への出資者でもある。アリババ集団はA+ラウンドで単独最大株主となり、テンセントはBラウンドで参加。その後の複数回の資金調達ラウンドでも継続して投資を行っている。